本書は、山口真紀氏の博士論文が書籍化されたものです。
博士論文というと難解なイメージがありますが、大変読みやすかったです。
読みやすかった理由の一つ目は、研究目的が明確な点にあると感じました。それは、本書の中にあるそれぞれの研究についてもそうですし、1冊にまとまった大きな研究としてみても、古典を学ぶ日本語学習者に効果的なサポートをするためにはどうしたらいいか、という点で筋が通っているからのように思います。研究のための研究ではなく、筆者の純粋な興味から、研究が行われている印象を受けました。
二つ目の理由は、文章そのものの読みやすさです。平易な言葉で書かれており、文や段落構成もシンプルで明快だと感じました。
また、研究手法の幅広さも印象的でした。海外18カ国の教育機関で行ったアンケート調査や、古典文章の理解度を調べるためにイラストを描かせた調査など多岐にわたっています。
日本人なら知っているはずの日本事情や、古典に関する常識を知らない恥ずかしさから、先生や周りの人に気軽に質問がしにくいというネガティブな気持ちがあることなど情意面についても明らかにされています。
海外の教育機関で多く行われている古典日本語を母語に訳しながら学ぶ方法だけではなく、現代日本語に訳して学ぶ効果と、教育実践の提案についても「なるほど」と思わされました。
留学生の中で、古典日本語を学ぶ必要がある留学生は、必ずしも多くないかもしれません。しかし、彼らは留学生の中でも、日本語や日本に強い関心を持っている学習者です。今までは「数が多くない」というだけで、教育方法の開発や、教材作成は進んでいませんでした。
この本を通して、古典を学ぶ熱心な留学生と、今までの教育の知見が少ない中、試行錯誤をして体系的に古典を教えようとしている先生の姿が見えてきます。
教員が各学習者にとって必要なことを見つけて、その中からクラス全体として必要なことを取捨選択し、しかも楽しく有意義な授業にしようとするという、日本語教育でよくみられるけれど、難しい教師の仕事が手に取るように伝わってきました。
山口氏がこの研究を始めたきっかけは、大学院生時代の経験にあるそうです。詳細は「あとがき」をご覧いただきたいのですが、全ての研究には一人ひとりに、とても個人的なストーリーがあるのだと改めて感じました。
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留学生教育や、古典教育に興味のある方は
ぜひ、お手に取って読んでみてください😃